【さようなら】西原漫画&お葬式でのコメント
今一度、「さようなら」
新聞を毎日、一階のコンビニで買って読んでいた。不思議なことに新聞記事というものは、小さな記事ほどおもしろく、そして意外な重要性を秘めていたりするので、おちおち斜め読みをしていられない。
ただでさえ、朝刊一冊を読むだけで一仕事終わったような気分になるのに、これが治療が始まると、おそらく手に取ることすらしなくなるだろう。そう思うと、今のうちに必死に読んでおこうという気分になっていた。
気になる記事が一つあって、切り抜いておいたのだった。
「何、何かおもしろい記事でもあったの」
「ああ、これ。行ってみたいと思わない?」
インドネシアの農民がマグロの大型遠洋漁船に乗りこんで、漁師になる、という話だった。
「もともと漁師と違って農民だから金を蓄える。漁民は儲けた金は一晩で使うが、農民は蓄える。土地を買う。牛を買う。次にトラクターを買う。家を建てる。農民は成功者が多いから乗り組み希望者が今は順番待ちの状態だ。日本船も我々も助かる。農民も潤う。良いビジネスだ」
と、現地派遣会社社長の言葉が添えてあった。
「どう、おもしろいでしょ。日本だと『マグロ船に乗るか』が脅し文句だけれど、インドネシアじゃサクセスストーリーなんだよ。まぁ、ステレオタイプの話で失敗した男たちもたくさんいるだろうけれどさ。その失敗した男たちの話ってのを取材したくなってね」
「あんたじゃないの。まんま。あんたの人生そのものです」
「そうかなぁ。お、俺は、俺たちは二人とも漁師だと思ったんだけど・・・」
「あははっ、そうかあ、二人とも漁師だあ。先のことなんて考えられないもんなぁ」
「そうだねぇ・・・」
彼女は急にしんみりした顔になった。くり出した言葉を頭の中で蘇らせてみる。“未来”という言から“命”につながったようだ。
「まあ、これから説明あるからさ。よく咀嚼して一番良い方向を考えようよ」
「そうね。それとくれぐれも言っておくけれど、焦らないでね。先を急いだって意味はないわよ」
「そんなことわかってるさ。漁師だもの」
「フフッ。そうだったわね、二人とも」
「そっ、二人とも」