【ストリートチルドレン&どうする?】
他の患者さんたちのように一日中、寝間着でいると仕事をする気にもなれないので、いつもジャージのような普段着に着替えているのだが、中庭に出ると、その日は夜まで蒸し暑く、首筋にべたりと汗がまとわりついてきた。
もし呼び出し音が五回鳴っても電話に出ないようであれば、きっと忙しいのだろうから、もう少し時間が経ってから電話し直そうと、番号を押すと、二回目の着信音で彼女は受話器を取った。
忙しくて予定をすぐに忘れるたちの女である。明日の件は一週間前に一度話したきりだ。きっと忘れているに違いないと思い、
「明日の件で電話したんだけれど」
「何だったっけ」とは言わず、「先生たちの説明ね、何時なの。かならず行くわよ」
「仕事、大丈夫なの」
「大丈夫じゃないけれど、私もしっかり聞いておきたいし、お母さんも来るんでしょ、何て言ってたの」
「いや、おふくろにはまだ電話していない。まず君にと思ってね」
本音で話し、この期におよんで照れくさかった。「まず君に」というセリフが自然に出たのだが……。
「で、どうなの。正直なところ」
「詳細は明日、医師が話すと思うよ。それよりもこちら三者の意見をまとめておいてくれって言われてね」
「そりゃそうね。方針がばらばらだったら話し合いにならないものね。で、貴方はどう考えているの」
「確率論から言うと無茶な話らしいんだけれど、今回で根治したいと考えているよ。そのためには二通りの考えがあって、悪い所をすべて取り除くか、抗ガン剤を初めに使って、せめて胸に転移した肉腫を消して、それから一番大きな副腎の摘出を行うか。医師は後者を選択したいみたいだ。どちらにせよ、俺は戦うよ。全摘が希望なんだ」
「わかったわ。もちろんあなたの考え方を優先するわよ。でも、私の知り合いの医師にも話は聞いてみるわね。時間は何時からだっけ」
「一応、六時からってことになっているけれど」
「わかった。四時頃にはそちらに行くわ。時間かけて、ゆっくり二人で話し合いましょうね」
「ありがとう。そうしてくれるとありがたいよ」
「じゃ、明日ね」
「俺、俺、戦うつもりだよ」
「わかっているわ。まだ先の話なの。あせらないで。あせっても何も変わりはしないから」
「ああそうだな。じゃ待ってるよ」
電話が切れた。息を大きく吸いこむ。そうなんだ。あせっても今さらしょうがない。